2013年3月13日水曜日

岐阜県訪問先:医療法人聖徳会小笠原内科

岐阜県訪問先:医療法人聖徳会小笠原内科
訪  問  日  時 :2013年3月13日(水) 16時半~
当事業担当者:院長 小笠原文雄先生、THP木村久美子様





  小笠原内科様では「家で死にたい」という方の希望にこたえ、多くの方の在宅看取りに関わってこられました。自分たちだけが在宅看取りをするのではなく、地域の開業医が在宅で看取りができるようになってほしいとの思いがありましたがなかなかそのような形にならず、自身の患者さんが増えていったとのことです。このため、地域の中で多くの資源が連携し在宅看取りができるよう、医院の東西南北30kmほどの医療機関と「教育的在宅緩和ケア」を推進されてきました。教育的在宅緩和ケアの実施前には地域の開業医の先生方の在宅看取り数が96件だったものが、実施後には131件になったり、がんの在宅看取り率が59%から77%になるなど、成果をあげられています。
 医療機関のみならず、訪問看護ステーションにも直接実地研修で学んでもらえるため、地域の力全体が上がり、小規模な訪問看護ステーションでも安心して負担なく在宅緩和ケアが実施できることに繋がっているとのことでした。
 この実現のために、タブレット端末を利用した遠隔医療(遠隔サポート)は効果的だとおっしゃいます。患者さんも、なじみの医師の顔を見て話ができ、安心感があるとのこと。このための患者・家族も参加できるアプリ開発(THP+)も拠点事業で行いました。

 また、在宅ホスピス安心ネットとして、地域の21の医療機関と訪問看護ステーションが連携し、看取りまで支える24時間システムを構築されています。開業医が一人の診療所でも安心して看取りまで支えられるシステムとのことで、主治医が不在でも安心ネットが作動して看取りもしています。この背景にはこれまでの経験から得たものも大きく、独居の方はどのような時に入院するのかを熟知して気を配ったり、入院のキーパーソンとなる家族にどのように考え方を持ってもらうかなどにも配慮されていました。

小笠原院長とスタッフの皆様


 小笠原内科様では医師、看護師双方に影響力のあるTHP(トータルヘルスプランナー)の育成を行っています。名古屋大学でもその育成が進んでおり、小笠原医師もその講師として講義を行っていますが、こちらでは在宅のチームがうまくいくことを目指した育成を行っており、今後は全国への実践ベースの情報発信なども検討されているとのことです。

 開催した多職種連携カンファレンスでは医師の参加も多く、顔の見える関係づくりに繋がっています。他の職種からも、敷居が下がったとの意見がありました。座長は岐阜市医師会で、教育関係者も出席するなど、様々な人々の協力により開催され、地域の人々を繋いでいらっしゃいます。

これからも現場を通した地域への活動展開に期待しております。
ありがとうございました。

2013年2月21日木曜日

熊本県訪問先:熊本市保健所

熊本県訪問先:熊本市保健所
訪問日時  :2013年2月21日(木) 15時~
当事業担当者:健康福祉子ども局医療政策課 医療企画係 前田友紀子 様
健康福祉子ども局医療政策課 課長 米納久美 様
健康福祉子ども局医療政策課 技術主幹 川上 俊 様




  

熊本市は政令指定都市であり、人口70万人以上を抱える九州地方有数の都市型地域です。
人口に比例し医療資源、介護支援が豊富で、救急医療などの提供体制が整備された地域です。
都市型地域においては、これから2025年にむけて急激な高齢者人口の増加が見込まれており、熊本市でも例外ではありません。そのことを市自治体の持つ人口統計データからいち早く分析し、未来の地域のあり方について検討が進められました。その取組みの一つとして、平成22年より在宅医療推進に向けた検討会開催でした。また、首長である市長の主導のもと、平成23年に「くまもと医療都市ネットワーク懇話会」を設置し、そこで市のアクションプランとして10年後の医療の姿を市民に明らかにするような「くまもと医療都市2012グランドデザイン」を策定しました。
この中の3本柱の1つに「高齢者や障がい者などが住みなれた地域でいきいきと暮らせる都市を目指す」という方向性を掲げました。
このような地域として方向性を明確に掲げることは地域の関係者が一丸となって取り組むきっかけとなり、士気をたかめる取組みです。
市長自らが「熊本医療都市ネットワーク懇話会」の座長を担うなど積極的に関わる行動から、在宅医療推進に向けて多くの市民や関係者の興味関心が高まりました。
この時期と同じくして、厚生労働省の平成24年度在宅医療連携拠点事業が開始され、熊本市として参加することに至りました。
こちらの保健所には保健師はおられません。 医療政策に関わる部署が在宅医療推進を担うということが、こちらの拠点の特徴の一つです。
もともと地域保健医療計画の策定などで地元の医師会の先生方や市内の医療機関との連携があったことで、こちらの部署が担当課として決定しました。
在宅医療を推進するために、まずは地元医師会の協力は必要不可欠と考え、何度も何度も説明に通われたことを伺いました。
最初は事務局では誰に声をかけたらよいか悩み、いつ、どのように連絡したらよいかもわからず、失敗しながら手探りだったとのことです。
最初は話しづらくても、何度も何度も足を運び、事業の説明や熊本市が目指す地域の未来について一生懸命説明して回ったそうです。そうすることで、次第に顔の見える関係から話ができる関係に発展し、お互いの情報交換、会話ができるような関係に発展していったそうです。
そのような丁寧な医師会の先生方との顔の見える関係づくりが成熟し、現在は医師会と密な連携の下で、熊本市の在宅医療推進政策は大きく発展しています。

左から 米納様、川上様、前田様


医師には17時以降に話しに行くなど、行政としても柔軟に対応されていました。市が本気で頑張っている熱い気持ちが相手の方にも伝わり、「医療者魂に火がつく」ようなこともしばしば。急性期病院にもおそるおそる声をかけたところ「在宅医療・介護連携の話をしているようだけれど、自分たちの所にはこれまで話が来ていなかった。やっと呼んでくれた」と言われたそうです。「わからない中でも飛び込んでいくと、皆さん良い方ばかりで温かい。その使命感には頭が下がります。」とお話しくださいました。

熊本市医師会の副会長はグランドデザインの在宅医療に関する作業部会にも参加されており、都道府県リーダー研修もきっかけとなって、熊本市の各区で在宅担当理事を配置するなど在宅医療の推進に積極的に取り組まれています。
また、医師会とは別の任意団体として、熊本在宅ドクターネット(http://www.kumamoto-zaitaku.com/)もあり、主治医・副主治医制などを医師のネットワークが支えています。

熊本市ではグランドデザインの事務局を高齢介護課と連携して担っています。介護のことは高齢介護課に教えてもらうなど、業務別の部署となる行政の中でも、横の連携をされています。
さらに、市長の公約で設置された「2000人市民委員会」(http://www.2000nin.jp/)も横の連携で活用しています。これは市民によるモニター制度のようなもので、年4回アンケート調査を行い、住民からの市政に対する意見を募るものです。アンケート実施は広聴課の所管ですが、このアンケートにがん、在宅、終末期などについて項目を入れ込み、意見をもらっています。
熊本市の未来を地域住民と共に考え作っていることは、これらの地域すべてに求められる取組みです。
住民と多くのかかわりを持つ行政と得意分野を生かした取組みです。

政令指定都市である熊本市の特徴として、多くの庁内関係部署が存在します。自治体が大きくなることで、庁内連携や、関係職種との連携にも工夫や時間、労力を要することが明らかとなっています。
その中でも、いかに庁内、そして地域の関係職種と顔の見える関係を構築し、信頼関係を深めていけるかが、需要です。
こちらの部署の担当官は同じ部署で5年目を迎えています。5年間関係者と顔を合わせ、積極的に講演会や勉強会、研修会、フォーラムなど情報収集と勉強を行いながら在宅医療推進の担当官として関わってこられました。
人と人とをつなぐのはやはり【人】であり、連携のキーパーソンである担当官をその部署に位置づけたということが、熊本市の優れた取組みの一つです。

このような熊本市の工夫ある取組みにより、様々な地域の関係者ら住民と協力しながら拠点事業を進めてこられました。そして最後に、拠点事業を進める上では「信頼」がキーワードだとおっしゃいました。
行政は異動があって人が変わるため、しくみシステムが残るようにシンプルで分かりやすいものをつくり、きちんと引き継いでいくことが重要だとお話しくださいました。

行政としての役割のご発信も期待しております。
ありがとうございました。

熊本県訪問先:玉名郡市医師会立玉名地域保健医療センター


熊本県訪問先:玉名郡市医師会立玉名地域保健医療センター

訪問日時  :2013221() 14時~

当事業担当者:医療連携室 野満様、永杉様、榎本様

玉名地域保健医療センターは玉名郡市医師会立の病院です。この地域は熊本市内に近く高度医療が必要な場合は住民の方が熊本市内の病院を利用することも多いため、住み慣れた地域での医療を支えるべく在宅医療のバックアップを行っていらっしゃいます。

設立時から住民と開業医の安心につながる取り組みをすすめてこられ、150床すべてが開放型病床という特徴があります。開業医が病院へ来て自身の担当患者さんの指示を出すといった関係の中、開業医から「自分のベッド、自分の病院」と言われることもあるほどだそうです。





拠点事業を始めるにあたって集まったメンバーで、在宅医療はがんや難病だけに特化するものではないということ、つまり「一部の人が行う特別なことではない」ということを確認され、眼科・整形・耳鼻科含めて「目指すものは、みんなが取り組むもの」「サポートしあうもの」であり、地域づくりであると意思統一をされていました。

1回目の多職種ワークショップでは「Wishポエム」という方法で、地域はどうありたいか、在宅医療はどうありたいかを問うたそうです。見いだされた500程のwishはそのひとつひとつが地域課題でした。大きく概念をまとめるのではなく、それぞれを解決していくことが地域課題の解決になるという理念の下、ひとつひとつを大切にしようと決められました。日々の活動の中で生まれる意見、多職種からの意見を聞く中で課題を抽出したことは、玉名地域保健医療センターにおける拠点活動の特徴の一つです。

2回目のワークショップではその中のいくつかを選び、そのWishは「誰が」「どうすれば」実現できるのか、難易度は?期間は?といった話し合いを実施されました。話し合いは他職種同士や、同職種でも職場の違う人などをグループとし、様々なアイディアが出されました。

課題を行動に移すプロセスはこの活動がなかったら生まれづらかったとおっしゃいます。「この1年で、みんながやり方を学んだ。事務局だけが学んだんじゃない。ワークショップの仕方、地域の課題を抽出してアクションにつなげるなど、皆で学ぶ場だった。」とのこと。「かたる」(熊本の言葉で「参加する」の意)、仲間に入りやすい環境づくりに気を配りながら、この活動につなげるプロセスを全体で共有できたということ自体が多職種協働で、大切なことだったとおっしゃっていました。


野満様
永杉様



                                                                                              
  
「個人に対するソーシャルワークから地域に対するソーシャルワークに」とおっしゃる医療連携室の皆様は社会福祉士とケアマネジャーの資格をお持ちで、お一人は看護師資格も所持されています。現場経験があるため、実際にケアプランを作ったりする中で連携の重要性を感じていらっしゃいました。また、ここまでは頼める、ここからは病院が頑張らないと、といった部分を掴めることは大きな強みです。

そして「地域の連携室」として開業医の方にも医療連携室を共同利用してもらえたらとお考えでした。医療だけでは問題解決ができないと医師も感じている昨今、中立性を保ちながら、医師と包括支援センターなどのつなぎ役になれたらとのことでした。

 これを周知するにあたっては、医師に遠慮なくご利用くださいと伝えられています。在宅介護支援センターに勤務していた経験から相談窓口はたくさんあればよいものではないと感じられており、住民さんには「何でも話せるかかりつけの先生」がいればよく、その先生方に「相談員はここにいるよ」と言ってもらえるよう流れを作っていきたいと活動されていました。


これまでの地域活動の中で患者さんを通じて共感したり、語り合えるものを持っているために、訪問看護ステーションや様々な機関が協力してくださっているのだと思う、と、共に活動される方々への感謝と共に活動内容を話してくださいました。


多職種の皆様と共に作っていく地域活動の今後の展開にも期待しております。

どうもありがとうございました。

長崎県訪問先:社会医療法人長崎記念病院

長崎県訪問先:社会医療法人 長崎記念病院
訪問日時  :2013年2月21日(木) 
事業担当者 :福井 洋一郎様


 本日は長崎市に訪問させていただきました。
 長崎記念病院様は平成23年度から在宅医療連携拠点として活動されており、平成23年度は唯一の病院拠点でいらっしゃいました。病院が拠点となるため、1年目は地域への周知が重要となり、半年程は周知に労力を使われたそうです。協議会を開催して顔の見える関係づくりを推進したり、様々な情報発信を行ってこられました。



 平成23年度には地域の事業所に対するアンケートを実施し、地域の状況を把握しニーズを確認されました。すると、急性期医療やショートステイの受け入れ、地域の研修会が望まれていることが分かり、まさに在宅連携事業で謳われていることが求められていると実感されたそうです。

 長崎市南西部は南北に細長く、山間部で交通の便も良いとはいえません。社会資源の分布状況にも差があり、とりわけ南西部南部には病院がなく、主に在宅対応を行っている診療所は2か所のみで、訪問看護ステーションもありません。このような状況の中、病院であることを生かして、「後方支援」を中心に地域の在宅医療を支えたいと福井様はおっしゃいます。
 長崎記念病院では24時間365日救急医療を受け入れることや、レスパイト入院の受け入れなどを通して、地域の安心を支えています。事業開始当初は救急医療を中心にというお考えもあったそうですが、地域の声を聞き、病床を地域に開放され、そして活用されるように情報周知をされています。また、ホームページ上で関連する介護施設の空床情報を発信していく準備もされていました。

 また、平成24年度からは、院内で実施していた研修を外部で実施するようにされたそうです。各事業所に希望を尋ね、コメディカルを派遣して地域全体の底上げを目指していらっしゃいました。この背景として、病院が急性期から療養段階まで様々な状態の方を受け入れることにより、スキルアップした職員がモチベーションを高めてアウトリーチ活動を実施してくれるという流れがありました。 各事業所毎に抱えている困難は異なっており、派遣することで各施設の現状が把握できたり、お互いの顔が見えるので、顔の見える関係づくりに繋がっているそうです。個別に対応することで日程調整もしやすく、事業所にとっても身近に聞けるメリットは大きいと考えられます。対象に合わせた誤嚥性肺炎の予防研修により無用な入院を減らすことができるなど病院としてもメリットを感じるとのことでした。

 長崎記念病院では、地域の強みを生かした活動にも力を注いでいらっしゃいます。
 長崎市には以下のような資源があります。

・長崎在宅Dr.ネット
  長崎市の医師会メンバーが立ち上げたもので、複数の医師が連携して訪問診療を行うもの
・あじさいネット
  診療所と病院間での情報共有システム
・長崎市包括ケアまちんなかラウンジ
  緩和ケアを中心とした相談事業を実施している。
  長崎市からの委託で医師会が運営。ケアマネジャー、看護師が専従。

 病院としても、退院患者の主治医を「長崎在宅Dr.ネット」を介して捜し、「長崎市包括ケアまちんなかラウンジ」でフォローされた在宅療養中の問題などを「あじさいネット」で情報共有するなどの活用をされていますが、拠点としてもこれらの資源を活用し、「長崎在宅Dr.ネット」の医師に研修の講師になってもらったり、「あじさいネット」の普及啓発研修を行ったり、公的役割を持っている「長崎市包括ケアまちんなかラウンジ」の研修を手伝う形で住民啓発を行っていらっしゃいました。

ご対応いただいた福井洋一郎様

 事業開始時から連携室便りを作成し、毎月140ほどの施設に連絡されています。アンケート結果の要望を汲み、この中に拠点事業の研修会の案内や、相談件数、診療報酬の内容なども掲載しています。地域における医療機関・病院の役割や医療と介護に関する情報発信をするのは、地域の基幹病院の役割になっていくのではないかとお話しくださいました。


病院であることや、地域の持つ強みを生かしながら、
後方支援として地域を支えるご活動の重要性を感じます。
今後ともよろしくお願いいたします!